シポラックスAtoZ

■まずは私的な意見

シポラックスという濾材には信仰的というか、かなり熱烈なファンが居る濾材だと思う。
これを読んでいる人にとっては「よしを’s濾過話(マニア編)」を書いたこともあって、私もその熱烈なファンの一人だと認識されているかもしれませんね。

しかし、私は自分では熱烈なシポラックスファンではないと思っています。

なぜなら、シポラックスが他の濾材と比べて格段に性能が良く他の濾材に無い機能を持っているかと言えば、胸をはって主張できるような所が私には見つけられないからです。
確かに嫌気的濾過が行われる可能性を秘めた構造をしているという特徴はありますが、嫌気性濾過(脱窒)は我々が維持しているような(週に1回といった程度の換水を行っているような)環境で、本当に意味と効果が有るのかと言えば、かなり首を傾げてしまいそうだからです。

話は変わりますが、アクアリウムにおける濾過のための濾材というのは非常に許容範囲が広いと思います。池や川、生活排水や魚類の養殖場などの濾過に比べれば濾材にかかる負荷というのは格段に低いのではないかと思います。
そういった環境での濾過ですから、本来非常に簡単なスポンジであってもバクテリアが繁殖し、必要となる濾過が行われる事は、市販されているスポンジ式の濾過装置を見ても分かります。

極端な話、お風呂場にある風呂桶洗い用のスポンジタワシを使っても、(目詰まりしてしまうといった問題が発生しなければ)アクアリウム用の濾過装置にセットして濾材として使うこともできます。
また、何の変哲もない砂利や砂でも濾過が行われることは知られており、何百リッターといった容量の濾材を使用する水族館の濾過タンクには川砂利(大磯砂)や砂が使われています。

と言うことを考えると、皆さんの家の外部式濾過装置に適度な大きさの川砂利などをつめて濾過をまかなうと言うことは全く問題ない事であると言えます。

では何故我々は川砂利やその辺のスポンジではなく、高価なアクアリウム用の濾材を使うのでしょうか?
もちろんアクアリウムという用途やアクアリウム用の濾過装置で使うことを目的に出来ていますから、目詰まりしにくかったりするような”専用であることの利点”も欠かせませんが、何よりも専用濾材を使う目的は同じ濾材容量でより多くの濾過能力を得たいと思うからではないでしょうか?

確かに川砂利と、とあるメーカーのアクアリウム用濾材を比較すると構造もリング状などになっており濾過装置内で目詰まりなどを起こしにくそうですし、バクテリアが住み着く場所も砂利よりは有利であると推測できます。

では、Aというアクアリウムメーカーの濾材とBというメーカーの濾材、どちらが優れているのでしょうか?
こういった問題になると、その性能を数値化して比較し判断すると言った事が我々のような一般アクアリストではほとんど不可能と言って良いでしょう。

と言うことはA社の濾材が2千円、B社の濾材が2千2百円だとすれば、どちらを買えば良いのでしょうか?
答えからすると、A社、B社ともにそれなりに名の通ったアクアリウムメーカーなら、まずどちらを購入しても合格点を得られるだろうと言えます。
逆に言えばそれ以上の優劣を付けることはかなり難しいという事です。

私もしばしば「濾材は何処のメーカーの物を使えば良いのですか?」という質問をされることが有りますが、そういった時にはこう答えるようにしています「アクアリウム雑誌の広告などでよく見かける名の通ったメーカーの濾材であれば、どれを選んでも良いです」と。

しかし、それでもどこかのメーカーを一つ上げてくれと言われたなら「シポラックスという名前の物があります、これは工業用としてよく利用されている物ですから、アクアリウム用の濾材というのはピンからキリまであり性能が怪しい物から素晴らしい物まで色々な製品がありますが、そういう意味ではそれなりの機能を信用できる濾材です」と答えるようにしています。

と言うのが私のシポラックスに対する思いです。

■シポラックスの効能

濾材の性能の目安としてよく表面積の大きさが引き合いに出されます。
表面積が大きいと言うことはそれだけ濾材が水に触れる面積が大きい=濾過バクテリアが住み着ける場所が多いと言うことになり、同じ濾材容量でも表面積の大きな濾材を使った方が濾過能力は大きいという風に考えることが出来ます。

ということで、シポラックスの箱や広告には”シポラックス1粒でテニスコート○面分の表面積があります”と書かれているのを見つけられます。
これに偽りがなければ、まずそれなりの濾過能力が有るんだろうという事が予想できます。

ただ、これについては他の濾材でも同じ事を競っており、最近の合成樹脂で出来たタイプの濾材でもかなり表面積が大きな物も多いようなので、とりわけてシポラックスの特徴と言える物でもなさそうです。

次に他の濾材とは違ったシポラックスの大きな特徴を説明します。

その大きな特徴というのは構造が連続した多孔質だという事です。

普通の表面積が大きいだけの濾材は左のイメージ図のような構造をしています。

それに対してシポラックスの連続した多孔質というのは左の図のようなイメージです。

これがどのような違いを生むかというと、連続した多孔質の場合濾材表面の方では好気性バクテリアが住み付き循環する水のアンモニアや亜硝酸を、酸素を使いながら分解します。
それと同時に孔の奥の部分では入り口部分の好気性バクテリアによって酸素が消費されてしまっているため酸素不足の状態になり、そこには嫌気性バクテリアが住み着きます。

深層部に住み着いた嫌気性バクテリアは好気性バクテリアが作成した硝酸をさらに分解するというわけです。

と言うのがシポラックスの連続した多孔質の理論的な効能であります。
この理論だけを聞けばなんて素晴らしい濾材なんだろうという気になりますが、果たしてこの狙い通りの働きを常にしているのかどうかは私には分かりません。

■シポラックス使用上の注意点

シポラックスは先の連続した多孔質を形成するために製造過程でシポラックス本体を形成する素材であるガラスに特殊な素材を混合して焼き上げるという作り方をするらしいです。

完成前にはその混合した特殊素材を洗い流すらしいですが、どうしても購入してきたばかりのシポラックスにはその成分が残っているようです。
その成分自体には毒性は無さそうなので、生体にはそれほど影響はないのですが、その成分は水質をアルカリ性に傾けるようです。

ということで、濾材本体には濾材の基本である”濾材は濾過を行うための物、従って濾過以外の水質を変化させる物であってはいけない”にそってガラス素材で出来ているのですが、製造過程で使われる素材により初期に水質をアルカリ性にするという大きな欠点があります。

その欠点を克服する方法は次の通りです。

  1. あまり大量のシポラックスを使わない。
  2. 熟成する
  3. 煮る
  4. 少しずつ時間を掛けて濾過装置に組み込む

です。

1.のあまり大量のシポラックスを使わないというのは重要かもしれません、それに経済的にもその方がありがたいですよね。
シポラックスはパッケージにも明記されていますが、水量100リットルに対して1リットルのシポラックスを使うだけで良いという事です。
従って60cm水槽で0.5リットル、90cm水槽で2リットル、120cm水槽で2.5リトルのシポラックスを使えば濾過はまかなえるという事になります。

2.の熟成するというのも有効な手段です。
新しく水槽をセットするときにはその水槽に使う底床や流木をベランダに置いたバケツに水を張って何ヶ月も置いておくというやり方をする人も居ますがそれと同じ考えです。
換水時の水をバケツにとりそこにシポラックスを入れておきます。
そのままベランダにでも放置して月に何回かはそのバケツの水を交換します。
交換する水を換水時の捨て水で行えば、もしかしたら使用する前からバクテリアが幾分住み着いていてくれるかもしれません。

3.の煮るというのもかなり効果があり、どうしても急いでセットしたいときには必ずこの方法でアルカリ分を出来るだけ煮出してしまった方が良いです。
方法は簡単で、鍋に水を張りシポラックスを入れて煮るだけです。
沸騰して数分したら煮出した水を捨てて流水でよく洗います。
念のためこの作業を2回以上繰り返した方が良いでしょう。

それでも大量のシポラックスを濾過装置に入れたいなら、一度に導入する量を0.5リットル以下にして、1ヶ月以上の間隔を開けて、少しずつ導入しましょう。

取り敢えず一般的に言われている水槽に導入する前に行う前処理は以上のような内容ですが、参考までに日本ショット社(シポラックスの総輸入元)から入手した、工業界向けのSIRANリング(←シポラックスの工業界向けの名前)の前処理の仕方をご紹介しておきます。

尚、これはあくまでも参考であり、もし実施するとしても個人の責任で行って下さい。
色々な薬品を使いますので、その安全性や効果について私はなんら保証いたしません。

Pretreatment of SIRAN-Carriers

Before the first use,SIRAN-Carriers should be conditioned as follows:

1.Pour 500ml 5% HNO3 on 250g SIRAN-Carriers.
2.Degas the SIRAN-Carriers(in HNO3)under vacuum.
3.Boil the material in HNO3 for 4h under reflux.
4.Decant the HNO3 and rinse the material for 12h with running distilled water.
5.Dry the SIRAN-Carriers at 150°C

In order to achieve high cell densities the cells shold be inoculated on the dry carriers.Capillary forces will suck the cells into the pores of the carriers.

■シポラックスの再生

濾過装置にセットされた濾材というのは定期的に掃除が必要です。
”スポンジや綿といった形状の濾材はいずれ捨てて新しい物と交換する必要があるが、セラミックで出来た濾材は洗浄することで何年でも使い続ける事が出来る”というのはセラミック濾材の常識でありますが、シポラックスの場合は一説によると”そうでもない”という意見が有ります。

それは連続した多孔質の深層部でバクテリアの死骸や老廃物により孔が詰まってしまうかららしいです。

確かに構造が構造なので言われてみればそういったことも有るかもしれません。

でもよく考えると連続した多孔質が連続しない多孔質になるだけで、表面がつるつるになってバクテリアが住み付けない状態に成るわけではないので、それほど気にすることは無いのではないかと思いますが、連続した多孔質で嫌気的濾過が行われることに価値を見いだしてシポラックスを使っているユーザーにとっては、シポラックスがシポラックスの価値を無くす事になるので一大事らしいです。

あくまでも民間療法的に言い伝えられている再生の方法ですが、140度以上のオーブンで数十分焼けば良いという噂を良く聞きます。
果たして本当に効果があるのかどうかは不明です。

ただ、オーブンで焼くにしてもそれほど大量のシポラックスを一度に処理できるわけもないですし、食べ物を焼くオーブンに濾材を入れることも抵抗がある方も少なくないでしょう。
もし、再生しないと気が済まないような場合は、新しい物を買い直した方が良いかも知れませんね。

さて、ここでもまた前処理と同じく日本ショット社(シポラックスの総輸入もと)から入手した、工業界向けのSIRANリング(←シポラックスの工業界向けの名前)の再生方法をご紹介しておきます。

同じくこれはあくまでも参考であり、もし実施するとしても個人の責任で行って下さい。
色々な薬品を使いますので、その安全性や効果について私はなんら保証いたしません。

Treatment of SIRAN-Carriers after a fermrntation:

After a fermentation SIRAN-Carriers can be reused.
Before the next use they should be treated as follows
(Procedure for 1l SIRAN-Carriers)

1.Fill the carriers in a 3l glas column with external loop and pump
2.Rinse the carries in succession
-with 3l of 10% H2O2 by down-flow circulation(4h)
-with running tap water(30min)
-with 3l of 1.5% HCL by down-flow circulation(90min)
-with running distilled water
3.Dry the carries at 150°C

■シポラックス裏話

最後にシポラックスについて言われている噂話をお知らせしておきます。

それはシポラックスは高価な濾材故工業界で使われてお払い箱になった物に対して何らかの再生処理をした物がアクアリウム用品として流通しているらしいという噂です。

ショップオリジナルといった格好で袋詰めにされたシポラックスをたまに見かけますが、ああいった物が怪しいのかもしれません。
ただしそれが、工業界向けの正規な製品を大量に買い付けてそれを化粧箱に入っていない形で販売している物なのか、それとも闇ルートの再生品なのかはお店に並んだ商品となっては見分けが付かないでしょう。

これはあくまでも噂です。
従って本当に再生品が出回っているのかどうかは私には分かりません。
あなたのよく行くショップにある箱詰めではないシポラックスが再生品なのか、それとも何らかのルートで買い付けられた通常の製品と同じ物なのかは分かりません。

それに再生等という手間暇を掛けてもそれでも儲けが出るほどの物だとも考えにくいので、もしかしたらそういった再生品なんか流通していないのかもしれません。

ただ総輸入元である日本ショット社の方からも「どうやらそういった物が有るという噂を聞いたことがある」と仰ってました。
ただ日本ショット社にしても実体はどうなのかとか、もし流れているとしたらどれぐらいの物がそうした裏ルートに流れているのかといったような情報は全く分からないそうです。

さてさて、ただの噂話なのか本当なのか?
どっちなんでしょうねぇ?

ま、いずれにしても高価であり人気がある濾材故にこういった噂話も出てくるのでしょう。
考え方によってはこういった噂話も一つの勲章であると言えるのではないでしょうか?



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